前回の音楽話から間が空いたけど、まだ80sポストパンク〜ニューウェイヴに浸っている。
今回は(ジョイ・ディヴィジョンを飛ばして)ニュー・オーダーです。
デジタルビートとエレクトロサウンドに乗せた美しいメロディのダンス・ミュージック、楽曲を牽引するほど強力でカッコいい“歌うベースライン”、驚くほど技術力のない歌と演奏。ひとことで乱暴にまとめると、これがニュー・オーダーの音楽ですが、前身のポストパンクバンド、ジョイ・ディヴィジョンの中心人物であったイアン・カーティスの死を乗り越えて、今のスタイルにたどり着いたということも有名な話。
もちろんそれは一足飛びに完成されたわけではなく、手探りしながらアルバム1枚ごと、てゆうか、シングル1枚ごとに徐々にできあがっていく様が、年代順に聴くとよくわかっておもしろい。(現在はアルバムそれぞれに、同時期のシングル等をコンパイルしたボーナスディスクがついていて、こんな聴き方も容易にできる)
ある日突然バンドのアイデンティティを失ったに等しく、残された3人が路頭に迷うのも当たり前で、新メンバーにキーボーディストを迎えたものの、ファースト『Movement』(1981)なんか、モロにジョイディヴィの影をひきずっていて、ひたすら暗くて重い。さらにイアンにかわって歌わざるを得なくなったバーニーのヴォーカルが痛すぎて、聴いていてつらい。もちろんひきずるのは当たり前だし、それでもとにかく継続・前進し続けようとする決意表明は立派だと思う。でもやっぱり神経質な陰鬱サウンドにすっ頓狂なヴォーカルは似つかわしくない。
当時からプレーヤーに乗る回数は他のアルバムに比べて極端に少なかったけど、間をおいて聴いた今はどうだったかというと……やっぱりきっついなあ。せめてファーストシングル「Ceremony」が入っていたら、ずいぶん印象は違っていたろうと思う(厳密には「Ceremony」はジョイディヴィ時代の曲で、イアンの名前もクレジットされている)。積極的に聴きたいのはピーター・フックがヴォーカルをとっている1曲目「Dreams Never End」だけやなあ。
続くシングル「Everything's Gone Green」(1982)「Temptation」(1983)では電子音が曲の要となり、いよいよ名曲「Blue Monday」(1983)でデジタルビートを全面的に導入し自分たちの音を確立、そしてセカンドアルバム『Power, Corruption & Lies[邦題:権力の美学(カッケー!)]』(1983)へとなだれ込むわけですが、もうここらへんは文句なしにカッコイイですね。
出会いは先輩に聴かせてもらった「Blue Monday」やったと思うけど、いちばん聴いていたのは、いわばそこからの流れの完成形である3枚め『Low Life』(1985)と、もうちょいギターロック寄りの4枚め『Brotherhood』(1986)。ここでももちろんバーニーのヴォーカル(の残念さ)は健在で、イントロがどんだけカッコよくてもヴォーカルが入るとどうしても脱力してしまう。けど初期と違って、楽天的なサウンドとこのポンコツヴォーカルスタイルはそれほど相性が悪く感じないし、実はそれもニュー・オーダー・サウンドのキモのひとつなのかも。
一方で無機質で正確なドラムマシーンのビートとプログラムによるエレクトロサウンド。また一方では、従来ながらのポップミュージックに則った感情に訴える美メロ&ギターと、型破りなピーター・フックの“歌うベース”、味のある(と言ってしまえ)ヘタクソな演奏。この対立するかに見える二方向の絶妙なブレンド具合こそがニュー・オーダーの真骨頂では。
さらに、当時に比べてちょっとは耳が肥えたいま俯瞰して考えてみると、多くのニューウェイヴバンドがリズムに対して意識的になっていたこの頃、レゲエやスカをはじめ黒人音楽からリズムを引用したポップミュージックが多く生み出されたみたいですが、実はニュー・オーダーってブラックミュージックのグルーヴに頼らないダンス・ミュージックというものを発明したすごいバンドなんじゃ?とか。今さらながら思ってしまいました。
87年にはリミックスシングル集『Substance 1987』リリース。単なるシングル集ではなく、わざわざリミックス中心のセレクトになっているところが大正解。オリジナルアルバムだけでは伝わらない、バンドのよりエレクトロ寄りな側面をパッケージしていて、ある意味暴力的。このコンピを聴かずしてニュー・オーダーを聴いたとは言えまいよ。今となっては音的にキビしい部分もありますが、そんなコソバユイ音も時代のドキュメントとしては感慨深く。
今回『Movement』〜『Technique』(1989)まで何度か通して聴いてみましたが、いちばんよかったのは(オリジナルアルバムで言えば)ニュー・オーダー・サウンドが確立された時期のセカンドでした。まあ3枚め4枚めは聴きすぎてて、新鮮味がそれほどなかったってのもあるのかもしれんけど、この頃の作品はシングル含めて名作ぞろいです。
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さて、ニュー・オーダーときたらジャケットの話をしないわけにはいきません。
ジョイ・ディヴィジョン〜ニュー・オーダーのほとんどの作品のジャケットデザインを担当しているのは、イギリスのグラフィックデザイナー、ピーター・サヴィル。
私が「エディトリアルデザイン」というものをはじめて意識したのは、間違いなく音楽雑誌「ロッキング・オン」を手に取った高校生の時(と言っても当時エディトリアルデザインなんて言葉はもちろん知らんけど)で、自分のデザインのルーツがここにあると言っても過言ではありません。「なんかしらんけど(ビジュアル的に)めちゃくちゃカッコイイ」ので読みはじめ、わからんなりに必死で解読しようとしてたもんです。当時そのアートディレクション/デザインを担当していた中島英樹氏が多大な影響を受けたというピーター・サヴィルによるアートワークは、レコードの世界観を端的に表現しています。
コンピューターを象徴するフロッピーディスク(時代ですねえ)をモチーフにした型抜きと、幾何学色彩パターンを配した「Blue Monday」、画家Fantin La Tourの絵画をメインビジュアルとして、これも先行シングル「Blue Monday」同様画面の端に幾何学色彩パターンを配し、裏面にフロッピーディスクモチーフの型抜きを施した『Power, Corruption & Lies』、抽象的な色彩ノイズ(のような)画面のみの『Brotherhood』周辺の一連のシングル群。どれもこれも美しい傑作です。(いずれも文字情報を全排。インディーレーベルだからこそできたことかも)
華々しいリミックスが施されたシングル集『Substance 1987』では、白を背景にタイトルとバンド名のタイポグラフィのみ(ただし文字にはエンボス加工)、一見内容とは真逆のように見えて、実は本質をついているんじゃなかろうか。
それにしてもこのバランス、完璧。
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